加行? はい 喜んで!

 何回か触れている話ですが、自分たち真言僧が行者としてスタートラインに立つためにはまず「四度加行(けぎょう)」という修業をする必要があります。

 「四度」という名称の通り、通常4ブロックに内容が分かれます。自分が高野山で行ったのは「中院流」の加行ですが、十八道、金剛界胎蔵界、不動護摩の構成です。流によって違いがあり、自分が現在、一流伝授を受けている西院流などの広沢系統の流では、金剛界の後に護摩が来ることが多いようです。

 

 高野山での中院流の加行についてですが、修行道場によって多少差異があるでしょうがこんな感じです。

 まず、日数です。各セクションで21日ずつです。21×4ですからトータルで84日となるのですが、四度加行の前に理趣経加行や護身法加行といった、そもそも加行に入るのに必要なことを身につける前行が加わるので、大体100日と考えればよいです。

 さして、一日につき3座ずつの行を修していきます。

 自分のときは、明け方に「後夜行」、朝の勤行、食事、下座(掃除とか)が終わると、昼までに「日中行」。昼食が終わると、奥の院や伽藍にお参りする両壇参拝。帰ってきたら「初夜行」。その後、夕方の勤行を終えて一日終了というのが基本ルーティンでした。

 最初のうちはまだ余裕があるのですが、最後の護摩行になると、一座あたり3時間越え、掃除や次の準備を含めるとさらに時間がかかりますので、かなりタイトになります。

 

 こういうこともあってでしょうか、今年から尼僧学院において、一日に二座ずつの加行プログラムが始まりました。これなら、余裕をもって修業できると思うかもしれません。しかし、誰も満行できなかったそうです。事情がよく分からないので何とも言えませんが、1日に三座ずつ、そしていつから始めるか(自分たちは初夜行スタートで日中行で終わるようになっていました)など、古来より伝わっていることにはちゃんと意味があるということかもしれません。

 

 今、受けている安祥寺流の一流伝授でこのような話がありました。

 安祥寺流の流祖は宗意さんという方です。この方はお不動さんを深く信仰していたそうです。それを知った師僧の厳覚さんが

 「そんなにお不動さんを信仰しているのだったらこの次第(厳覚さんのために師である覚俊さんが作ってくださったもの)をあげるから、この次第を使って100日間加行してみるかい?」

とおっしゃったところ、宗意さんは喜んで行じられたそうです。

 

 その後、宗意さんも実厳さんという優秀なお弟子さんを持たれます。あるとき、尋ねました。

 「ところで、あなたはどの仏さまがお気に入りなの?」

 「お不動さんです。」

 宗意さんは「同好の弟子」と知り、嬉しくなります。そして、さきほどの自分と師僧とのエピソードを語った上で

 「もしよかったらこの次第あげるから、自分と同じように100日の不動加行やってみる?」と尋ねます。

 それを聞いた実厳さんは喜んで、その次第を頂いて熱心に修したということです。

 

 そういうこともあって、この流ではお不動様を特に大切にし、四度加行とはいうものの、途中に不動法、しかも「二重」といっておよそ初心の者がやるには難しい複雑な行が加わっており、実質「五度加行」みたいになっているそうです。

 

 普通だったら、修行の日数が増えるのは「大変だな」と思うのが普通かもしれませんが、そうではないんですね。

 

 「あなたのために、この次第と法を伝えるよ」、と師僧に言っていただけた瞬間に、目を輝かせて「是非、やらせてください。」と食い気味に答える弟子の姿が眼前に浮かぶようです。

 

 そして、この話を伝えているのが、室町時代に、高野山で事相の大家であった宥快さんなのですが、この話に出てくる次第が伝わって自分の前にあることに、大層感激されておられるのです。今と違って、印刷されたものではなく、手書きの写本が大切に伝わっていく時代であったためになおさらですよね。

 

 さらに、このエピソードを今回の伝授阿闍梨である佐藤先生が、臨場感たっぷりに、ものすごく嬉しそうにお話してくださるんですね。

 登場人物すべてが「行法マニア」なんですよね(失礼)。

 

 先師さんたちから大事に伝えられてきた修法を感謝して学び、嬉々として取り組むことができる人にとっては何でもないことなのでしょうが、住職資格のために、義務としてしなくてはならない人にとっては加行はきついのかもしれませんね。