仏になるための薬

 先日、俳優の西田敏行さんが鬼籍に入られました。代表作は数え切れませんが、自分は子供のころに見た西遊記猪八戒役を思い出します。三蔵法師夏目雅子さんがやっておられました。そのモデルとなっているのは、七世紀に中国におられた玄奘という方です。足掛け十七年をかけてインドから膨大な経典を持ち帰られました。一方、お供の孫悟空たちのモデルはというと、三蔵法師の心の中にある煩悩である貪瞋痴だといわれます。

 貪はむさぼり、必要以上に求める心のことで、いくら食べても満足しない猪八戒の姿がその象徴です。瞋は怒り、憎しみのことで、すぐにかっとして暴れる孫悟空が象徴しています。そして痴は愚かさというよりも愚痴のことで、いつも文句ばかりを言っている沙悟浄がその象徴です。

 私たちが、仏さまと同じ構成要素から成り立っているにもかかわらず、仏となることができないのはこれら貪瞋痴のせいであり、三毒と言います。

 では、この三毒を完全に無くしてしまえばよいのでしょうか。一時的になくすことはできても、あとから次々と湧いてくるのが煩悩です。また、怒りや欲といったものが、生きる上で原動力になることも否定できません。そこで、西遊記のお話がヒントになります。

 貪瞋痴はつねに私たちに付き従っています。そして、うまくコントロールして従わせることができれば、大いに役に立つ存在だということです。ときどき孫悟空が暴走したら、呪文を唱えて頭につけた「緊箍(きんこ)」という金属の輪を締め付けて懲らしめてやる必要があるわけです。

 では、具体的にどうすればよいのか。「三毒」というくらいですから、解毒してやる、中和してやればよいわけです。

 まず、貪に効く薬は、反対のことをすればよいのです。つまりは「布施」です。自分の持っている中から少しでもよいので、困っている方に分けてあげる。寄付や募金といったものがすぐに頭に浮かぶでしょうが、「無財」の布施といって、笑顔(和顔施)や優しい言葉をかけてあげること(言辞施)も立派な布施です。瞋に効く薬は「慈悲」です。誰かに腹を立てた分、誰かに優しくしてあげましょう。そして、痴に効く薬は「感謝」です。不平や文句を言った分だけ、「ありがとう」と言ってみましょう。

 昔からよく言われる「和顔愛語」という言葉は『大無量寿経』という経典に書かれているものです。難しい知識を詰め込むよりも、厳しい修業をするよりも、ニッコリ笑顔で、「ありがとう」「おかげさま」と優しい言葉をかけることこそ、仏さまになる近道なのかもしれません。

 

※ 寺報「西山寺通信29」令和6年11月号の内容を加筆修正したものです。