よく、お坊さんの修行ってどんなことをするんですか? と尋ねられます。
「滝に打たれたりするんですか?」とか、「山の中を走り回るんですか?」とか言われて、「いえ、そんなのはしないですよ。」と答えると、大概の方は残念そうな顔をされます。
たしかに高野山真言宗でも、水行などの「苦行系」の修行もあるのですが、阿闍梨になるための一番基本的な修行である「四度加行(しどけぎょう)」には、そのようなものは含まれていません。ほとんどの時間は、じっと座って真言をひたすら唱える「念誦」が中心です。
最後の護摩行だけは、火が上がるダイナミックなイメージなので違うだろうとお思いになるかもしれませんが、「入護摩」という、実際に火が上がる段階に至るまでの段取りの方が大半を占めています。
たとえば、お不動さんの真言(慈救呪)「ノウマク サマンダ バザラダンセンダ マカロシャダソワタヤ ウンタラタ カンマン」を千遍唱えたりする(ここだけで50分以上です。逆にそれより時間がかからないようだと、ちゃんと唱えることが出来ていない証左だと言われました)ので、想像していただけるでしょう。
ところで、在家の方でも仏道修行に興味をお持ちで、やってみたいという方が多いと思います。密教でも、在家向きの修行として「阿字観」(実際には阿字観は難しいですし、最初は指導者なしに行うのは危険ですらあります)や「阿息観」などの瞑想もありますが、敷居が高いかもしれません。
そこで、お釈迦さまの時代から説かれているメジャーな修行方法である六波羅蜜行のご紹介です。
波羅蜜(波羅蜜多)とは、迷いのない覚りの世界のことです。六波羅蜜行とは覚りに至る六つの方法ということです。その内容は次のようなものです。
① 布施波羅蜜
財施、法施(真理を教えること)、無畏施(恐怖を取り除き、安心を与えるこ と)の三種があります。対価、見返りを求めるものではありません。
② 持戒波羅蜜
戒律を守ること
③ 忍辱波羅蜜
苦難に耐え忍ぶこと
④ 精進波羅蜜
瞑想により精神を統一させること
⓺ 般若波羅蜜
真理を見極め、悟りを完成させる智慧を得ること
内容が抽象的なので、分かりにくいかも知れません。具体的な行動として「○○しなさい」と言ってもらう方が実践しやすいでしょうね。
ということで、一番簡単な方法としてご紹介するのが、仏様へのご供養です。
仏様へのご供養として六種供養というものがあります。
①水
②塗香(お香を手に塗り込んで清めること)
③お花
④お香
⑤ごはん
⑥燈明 のことで、それぞれが六波羅蜜行に対応しています。
たとえば、
①水が至る場所の、あらゆる生命を潤すように、持っているものを投げ出します
②香りが良いにおいがするように、世の中の決まりを守り心のけがれをきよめます
③花が分け隔てなく咲いているように、不平不満を言わずにニコニコ過ごします
④線香の火が消えずに、真っすぐ天に向かって薫香を上げているように、絶え間ない努力をします
⑤ご飯を頂くと身体が安らかになるように、仏様のように心を落ち着けます
⑥燈明の光が闇を照らすように、仏の智慧でこの世を照らします
というように、それぞれの供養が六波羅蜜行を象徴するものになっています。
ですから、一日に少しでも時間を割いて、どれか一つだけでも(②の塗香は一般のご家庭ではやらないでしょうし)実践していただくのも立派な修行と言えるでしょう。
でも、家に仏壇も仏様もいないし・・・と仰る方もいらっしゃるかも知れません。
そんな方は、お花を飾るというのもいいでしょう。
ある先達さんが、仏壇でお花を供える方法として、こちらを向けるのは間違いで、仏様の方に向けるのが正解だと熱弁をふるっておられました。
でも、どこのお寺でも、そんなのを見たことないですよね。
たしかに、お花は仏様にお供えしているのですが、仏様はそれを回向してくださっているのです。つまり、私たちに綺麗な花を見て心を安らげるようにと、功徳を振り向けてくださっているのです。
閉塞的な状況で、世の中がピリピリしているように感じます。花を飾ったり、愛でたりすることで、少しでも優しい気持ちを保つことが出来たらなと思います。